私たちの身近にはエムポックス患者が発生したとの話は、日本では、現時点ではほとんど聞かれません。しかし、世界ではエムポックスの患者は発生しています。
その現実の中で、2024年8月14日に、世界保健機関(WHO)の緊急委員会が開催され、特に、コンゴ民主共和国及び周辺国におけるエムポックスの急激な感染拡大について、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態であると宣言しました。
エムポックスは、感染力の強い感染症で、以前はサル痘(Monkeypox)と呼ばれていました。
感染者(発症者)の体表面に現れた皮疹などの皮膚病変への接触や近い距離での会話、呼吸などを通して感染します。また、性行為での感染も疑われます。
インフルエンザ様症状で始まり皮膚症状を引き起こし、死亡率の高い感染症として知られています。
2022年に発生したエムポックスのアウトブレーク(世界的な流行)はアフリカ、ヨーロッパで広がり、日本でも感染者が出るなど、警戒されてきましたが、大きな流行には至らず過ぎていました。
ところが、2024年8月23日に再びアウトブレークが発生し、『国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態』をWHO が宣言しました。今回のエムポックスは、重篤なコンゴ盆地型ウイルス(クレードⅠ)によるもので、罹ると重篤な症状を引き起こすことも多く、WHOは警戒を続けています。
実際、ヨーロッパからタイに入国した人の中にエムポックス感染が認められ、しかも死亡率の高いタイプのウイルスに感染していたことが分かったことで、重篤なウイルス型がアフリカから拡がりつつあることを示していると考えられています。
2022年以降9万人以上の感染者が報告されています。
感染者の大部分は男性ですが、小児や女性にも感染が報告されています。
国内では2022年7月25日に1例目の感染者が報告されました。
2023年以降も発生は続いており、2024年8月9日までに248例が確認されました。
ポックスウイルス科のエムポックスウイルスが病原体です。
コンゴ盆地型(クレードⅠ)と西アフリカ型(クレードⅡa 及びⅡbの二系統に分類されますが、コンゴ盆地型(クレードⅠ)による感染では、死亡率は10%に及び、西アフリカ型(クレードⅡa及びⅡb)での感染では、1%程度と報告されています。
通常、6~13日
アフリカに生息するげっ歯類や、ウイルスを保有するサルやウサギなど動物の病変部位との接触によりヒトに感染します。
ヒトの間では、感染したヒトの病変部位、体液、血液などへの長時間の暴露によって感染が継続します。
発熱、頭痛、リンパ節腫脹(顎下、頚部、鼠径部)が0~5日くらい持続し、その後発疹が出現します。
発疹は主に顔面や四肢に出現し、水疱、膿胞を作り、多くは2~4週間持続して痂皮を形成します。その後、自然に軽快します。
小児や高齢者、基礎疾患を有する場合には、合併症を起こし重症化することもあります。
また、二次感染や気管支炎、敗血症、脳炎、角膜炎などを合併することがあります。
エムポックスでは顔面や四肢に加え、手掌や足底にも皮疹が出ることが水痘と異なり、鑑別に有意です。
2022年5月以降の欧米での流行では、会陰部、肛門周囲、口腔などにも皮疹が表れる例もあり、性行為などでの感染も考えられています。
水疱や膿胞の内容液や水疱の痂(かさぶた)などの組織を用いたPCR検査による遺伝子の検出が確定診断となります。
エムポックスの流行は恐れる必要はありませんが、この疾患に関する正しい知識をもち、予防法についても十分な知識を持ちながら、疑わしい症状が出た時には、適切な医療機関を訪れ、診察を受けましょう。