朝、病棟に行くと、昨夜入院してきた男性が、入院後、数時間で死亡したと報告されました。
疑い病棟の奥に、彼の遺体が毛布にすっぽり包まれてポツリと置かれていました。彼は数日前から、下痢をしていたとのことでした。彼を被っていた毛布は、下痢便で汚れていました。既往歴には、鼻血もあったとの記載が見られていましたが、そこには鼻を安全ピンで刺したため、と家族が言っていたとの断り書きが付いていました。そこには、エボラ出血熱患者に対する世間の差別の目を意識していた家族の思いが感じられました。
午後、トリアージにはグル病院のクリーナーの17歳の女性が私たちを待っていました。熱が出ていると言っていました。私は彼女に、採血の結果がわかるまでの入院を勧めました。すると、彼女は声を押し殺したように泣き始めました。彼女のなかではエボラと死とは同義語でした。多くの同僚をエボラで失い、悲惨な現実を嫌というほど知っていた彼女だからこそ、疑われた時点で、その意味を理解していました。
ダンは彼女にラチョー病院への入院を勧めました。しかし、彼女は頑として聞き入れませんでした。そして、婦長のフローレンスも、彼女をグル病院に入院させると主張し、自分たちで彼女を看病すると言い切り、彼女のベッドを用意するために部屋の隅に向かって行きました。
悲しいことに、彼女の検査結果は抗原陽性でした。